ここで、今日的な指摘を幾つか述べたい。

まず、よい表現ではないが、一応借用すると「無免許管理職」。拙著「ポスト成果主義の人づくり組織づくり」でも述べたことだが、この面接演習に臨んでくる受講者の姿勢が、昔と今とで少し変わってきた。要するに人と面と向き合う葛藤に不慣れな人の割合が増えた。マネジメントの仕事は、実際にはほとんど人と向き合う仕事である。当然利害が食い違うことも多いし、「イヤなやつ」ともうまくやってゆかなければならず、言うことを聞かない部下だっている。

しかし、色々な原因が重なり、入社後十数年、資料づくりその他個人の担当仕事を指示された通り、受動的に黙々とこなしてきた人が、年次の順番が来たと言うことで、急にこうした研修に出て来られることがやや増してきた。そうした方が「さあ面接をやってください」と言われてとまどう場面が「昔」より増えたと言うことだ。本当にどうしていいかわからない人もいるのだろう。

こうした状態に「無免許管理職」などと言う言葉があてられたのであった。あまり感受性のある表現とも思えないが、内容はそうしたことだ。わるいのはそうして突然研修に行けと言われた受講者ではないだろう。そのような事態を生じさせたことを会社としてどう考えるかと言う問題である。アセスメント研修は、そうした状態を浮き彫りにすると同時に、訓練にもなっている。もちろん前回述べたように、運営側に、こうした面接を適切に行う技術が構築されていないとうまくゆかないのだが。  

次にもうひとつ、別な最近の傾向を指摘しておきたい。コーチングが流行したせいか「君はどうしたら良いと思うか」とやたらに質問する受講者が増えてきた。このこと自体わるいことではない。むしろそれなりに能力経験ある部下と前向きな中長期的課題を考えるときには大変良い事だと思っている。しかし、万能の道具と言うものはない。コーチングはマネジメントの優れた道具のひとつに過ぎず、コーチングによってマネジメントがすべてできるなどと考えたら大変な誤りである。

まず第一に、自分の信条やマネジメントに関する考え方がないのに、やたらと部下に質問するのは無意味である。問題はそうしたものをやたらと押しつけたり固定観念になってはいけないと言うだけで、自分の考えが無い人になど誰も着いて行かない。
第二に、上記のようにコーチングが有効な場面はそれなりに限定されている。だからこそその場面では強い力を発揮するのである。一般に、コーチングが適しているのは「重要だが緊急ではない事柄」であり、「重要かつ緊急な事柄」はコーチングには適しないとされる。そうしたことは優れたコーチングの教科書には必ず書いてある。考えてみれば当然なことだ。こういうことをわきまえないで、いつでも質問ばかりすれば良いと言うものではないのだ。

だいたい部下をわざわざ呼び出して面接し、問題の決着を図らなければならない場面と言うのは、ほとんどがトラブルが起きているなど「重要かつ緊急な」節目の場面である。こうした場面で、マネジャーは、部下に質問し、その言うところを傾聴はするのもいいが、最後は自分自身の責任で物事を決めなければならない。そのリスクが取れない人は決してマネジメント能力を高めることはできないのである。自分自身が決心をしなければいけない場面の心理的負荷を部下に委ねようとするような上司に誰が心服するだろうか。
マネジメントは、コーチにも慈母にも鬼にもなるよう、状況の必要により態度を選ばなければならないのだ。大変である。だからやりがいがあるのだが。  

もうひとつ言うと、上記の逆に何とか部下を言い負かそう、その非のあるところを立証しようとする受講者の割合も「昔」より少し増えた。このブログの人づくり実戦問答4「部下を屈伏させてやろうと思って臨んでいませんでしたか」に、その様子をやや詳述している。

「昔」も屈伏させてやろうと言う人はいた。が、それは、上司の権限、沽券(こけん)に賭けて、小生意気な部下の鼻っ柱をへし折ってやろうと言う、ほめられたものではないが、それはそれでからりとしたものだった。今はそう言う上司像はややかげをひそめ、何とか、自分の立場と役割を守ったエビデンスにでもしようかと言う傾向が少し増えた。つまり、部下の行動に落ち度があったことを一生懸命発見し、立証するような面接である。 

立証はさほど難しくあるまい。欠点や弱みのない人間などはあり得ず、上司にはそれを認定して裁く公式の権限があるのだから。しかし、そうした行動がどのような作用をもたらすかは全く別論である。そう言う上司に心服して、この先どんな艱難辛苦にも、ともに耐えようと思う部下は誰もいないだろう。

どうしてこのような態度が増えてしまったのだろうか。ひとつには、細か過ぎる目標管理の4半期毎の達成率だとか、何事もまずコンプライアンスだとか言い過ぎ、自縄自縛になって、組織みずからマネジャーのスケールを小さくしていないだろうか。目標もルールも、もちろん守ってもらいたい。が、部下を育てるふところの深さは、別途持つよう、○○ウェイなり、○○行動指針に明確に載せて欲しいものである。どのようなしくみも人が活性化しなければむなしい。

(この記事は「株式会社マネジメントフロンティア」ウェブサイト上に2011年10月4日付で掲載された記事「その7:面接演習に関する今日的視点」の再掲載です。)