2021年1月より当社顧問に就任した横山太郎。前回に引き続き、今回の記事でも横山のこれまでの手掛けてきた仕事について、クライアントの特性や、依頼をいただくキーパーソンについてご紹介する内容です!

前回記事はコチラ

地に足の着いた、組織活性化・人材育成を目指して

前回の文脈からおわかりでしょうが、私のクライアントの課題感は、流行のカッコいいキーワードで表現するものよりは、地に足の着いた、組織活性化、人材育成を目指したものでした。これは全く普遍的なニーズです。それで、そこに伴走してくれる実戦力、現場感を持ったコンサルタントはいないかという探し方をしたのでしょう。人は育てなければいけないが、はやりのツールや用語をやたらと振り回してセールストークにしてくる会社や営業マンはあまり信用ならず、本当に自社の中に入り込んでやってくれる先生を求めたいと思う依頼者と出会ったと言うことだったのだと思います。

これもまたアナログな世界です。その会社に合った、人事制度も人材教育の設計運用もまた、基礎にデジタル情報は必要ですが、最後は全くアナログ的な判断力を要します。新奇の手法、はやり言葉を、取ってつけたように即席導入して、すっかり組織も人も改善向上したなどと言う話は、寡聞にして聞いたことがありません。もちろん私なりに、期待役割だとか成果責任、人材評価その他の用語は用いますが、特に奇をてらったものではありません。

少し余談ですが、スティーブ・ジョブスと言えば、デジタル世界のITのレジェンドですが、その伝記を一読すればわかるように、彼において重要な意思決定は、人に働きかける行動を含め、ほぼアナログ的です。時には彼が影響を受けた禅語まで用います。ドラッカー亡きあとの第一の碩学ミンツバーグも言いました。「優れたマネジャーは皆アナログを好む。」物事は本質に近くなるほどアナログになるようです。毎月の個々人の給与、手当の計算や、簿記、税務処理などは、デジタルでないと困ります。が、マネジャーの行動のうち最重要な部分である、人を動機づけたり評価したりする世界は、必ず最後は至高とも言うべきアナログ判断を要するのです。それを植え付けてゆくには、アナログ的な導入や浸透を図るほかにありません。

部下を活躍させるマネジメント能力の向上こそ大事

セミナーなどを開いても、現実の会社の中の様子をよくわかった先生だと言う感想を頂いた場合が、ご依頼につながるケースが多かったように思います。

だいたい人事制度や人材育成における、はやり言葉は、極論すれば流行のファッションを追うようなものです。それらは、大きな組織の、人事部教育部の方々の装いのためにあるのであって、修羅の巷である企業の戦場にて激闘する多くの社員のためにあるのではありません。そういう場でそのようなものが通用するはずもありません。そう言えば鴻海に買収されたシャープに、その親会社から出向してきた戴正呉会長は言っていました。「今の日本の大企業の人は、公務員のような人ばかりになって、とても組みしやすい。昔は私も、日本企業に鍛えられて今を築いたが、すっかり様変わりしてしまった。」と言う趣旨のことを言っていました。何とも耳の痛い話ではありませんか(誤解のないように申し添えると社会に奉仕する立派な公務員、高邁な愛社精神を持った大企業のスタッフがたくさんおられることは存じた上で申しております)。

私は長い経験の中で、民間企業にあってそうした(役人のような)方々と、はやりの術語の解釈の意見交換をしていても、誠にむなしいことだと割合早くに気が着きました。それで社員が元気になるわけでもなければ、その会社の競争力が高まるわけでもない。私が居るべき場所は、厳しい現実の競争場裡にさらされた、マネジャー、専門職、中堅社員の方々のかたわらであり、私の使命は、力の及ぶ限り彼ら彼女らを勇気づけたり助言したりすることであるとやがて思い至りました。

もちろんその前提を整えるため、評価制度や賃金体系を構築する支援をすることも多いのですが、なるべく本質を浮き彫りした簡明な運用ができるように配意しています。上述した私の依頼者になるような方々にとっては、臨床実験の済んでいない治験薬のようなツールを持ち込まれては困ります。自社の体質と本質の目的に沿った制度設計を手伝ってもらいたいと言うニーズが前面に出ますので、一層にそうなります。

ルール自体を、幾ら細かく精密にしたところで、組織は活性化しないばかりかむしろ重い副作用を伴って自縄自縛になりがちです。成果主義が流行した頃の大企業のほとんどの例が、制度倒れになって失敗し、そればかりでなく社員に無益な多大の徒労を強いたことを忘れてはいけないと思います。あの京セラ創業者の稲盛和夫氏は、厳密に計算した、かの「アメーバ」(最小単位の組織)の時間当たり付加価値は、経営ツールとしては大いに活用して来ましたが、決して人事考課には用いてはならないと言っています。大事なのは、ルールを細かく刻むことではなく、部下を活躍させ力を発揮させる、上司管理職側の意識改革やマネジメント能力の向上なのです。

人事制度から幅広い社員教育まで

お手伝い内容としては、規模の大きい会社の場合は、人事考課を含む教育研修から入る場合もあります。数百人までのクライアントの場合は、人事制度、評価制度などから入って、浸透を図りながら、その展開面としてたいていは研修や面接の実施支援を求められました。人事制度等は2〜3年で終わるとして、そうした研修や面接などが長く続く場合が多くなりました。この先生なら当社の社員教育をやや広い範囲で任せても大丈夫だろうと思われて、お手伝いを頼まれ続けたケースが多かったようで、コンサルタント冥利と言うものでした。

お蔭様で長いお付き合いになった事例も多く、たとえば現時点では、25年連続、23年連続のお手伝いとなっているものなどが最長記録です。

経営者やキーパーソンの方々に、「ウチの社員のことを深く気にかけて頂いてありがとうございました」と言われる時が、私が最も己の使命の達成感を感じる時のひとつでもあります。もうひとつはそのクライアントの中の優れたマネジャーや気鋭の幹部候補生に、「先生の質問には深く考えさせられた」などと言われることです。ついでに言うとそうした方々に、研修の終わり際に「すぐ仕事に戻りたくないので、もう少しここでその余韻に浸っていたい」と感想が述べられる時でもあります。