私は、20年以上にわたり「人材育成」という生業に従事してきました。少しその「人材育成」について振り返ってみたいと思います。
私がかつて仕事をしていた頃(昭和50年代〜バブル直前ごろ)は、特に「マネージャー研修」などなくても人(部下)は育っていました。
今と何が違うのだろうか? ちょっと考えてみました。
今はなくなってしまったがかつては、あったこと・・・
「長期雇用」「年功序列」「タイトな(いつも一緒に仕事をしている)職場関係」の3つがそろうと人が自然に育つ可能性が高まっていたのではないかと推察します。上司と部下もお互いのことが、分かり合えることが多かったな〜と思います。今でも(退職して30年以上、当時の直属の上司=課長が80歳を過ぎても)お付き合いが出来るのは、そういう土台があったからではないか。それもこの3つの恩恵のように思っています。
あえて「マネージャー研修」などしなくても、ごく当たり前に「OJT」の環境もあったので、マネージャーも自然とその役割が担えていたのだと思います。当時は「焼き鳥OJT」というのもありました! これをご存知の方は、私と同年代だと思います!
そして、マネージャーとは、
「社内の調整や人間関係のトラブルなど、すぐには”白黒つけられない、難しい問題”の解決を担う。タフな交渉力が必要であり、それでも心を通わせることが求められる」
人(部下)に対しては、
「仕事を任せて、しかし放置はせず、よく見ていて認め、成果をあげさせること」=「自分が動くのではなく他者に気持ちよく動いてもらい、成果を出させる」。
このように人材育成をしていくのがマネージャーの大きな仕事の柱だと思います。
一方向だけの情報伝達やコミュニケーションでは、人は育たないのです。「あれやって!」「これは、こうやって」ということでは、人は育たないのです。
常に「導管モデル」になってはいけないわけです。(これは私が講師になって少ししてから言われていたこと)
つまり、上司の頭から部下の頭にパイプのようなものが伸びていて、そのパイプを伝って、情報が上司から部下の頭を目掛けて伝達=注入のみされるイメージ。このモデルを使うべき時もあると思いますが、それでは「人(部下)は育っていないことをマネージャーは認識することが必要」だと私は思います。
あくまでも『他者を通じて物事を成し遂げなければならない』→これが、マネジメントの定義なのです。
それには「問いかけ」「考えさせること」の役割を担うのがマネージャー。
気づかせるのか? 教え込むのか?・・・この両者のバランスが大事であり、両方ないといけないと私は思います。
人(部下)が育っていないのは「マネージャーの責任」という認識が重要ですし、人(部下)はほったらかしでは何も進歩せず、容易には育たないのです。
人材育成に必要な「経験軸」「ピープル軸」
そして、人材育成に必要なのは「経験軸」「ピープル軸」だと言われています。
・経験軸=「人の育成は実際のリアルな現場での業務経験が最も重要」(業務経験から学ぶことを「経験学習」と言う)
・ピープル軸=「人が業務の中で成長するのは、職場の人たちからさまざまな関わりを得られた時」
これをふまえてフィードバックをしながら、人材育成を実行していくことが必要なのです。つまりは「人は仕事を通じて成長する」のだと私は確信しています。
フィードバックとは・・・(ティーチングでもコーチングでもない)
情報通知→たとえ耳の痛いことでも、部下のパフォーマンスに対して情報や結果をちゃんと通知すること(現状把握、向き合うことの支援)
立て直し→部下が自身のパフォーマンスなど認識し、自らの業務や行動を振り返り、今後の行動計画を立てる支援を行うこと(振り返りとアクションプラン作りの支援)
と、私が尊敬する立教大学の中原先生が言われています。まったく、その通りだと思います。フィードバックとは、支援することが前提での行為であると思いますが、フィードバックをする時は、マネージャーも腹を括って行わなくてはならないのです。(良く人(部下)を見ていないとフィードバックはできない。いい加減なフィードバックは見ていなかったことを人(部下)に見抜かれる)
そして、フィードバックをするタイミングを逃してはなりません。このタイミングを掴むまでには、マネージャーとしての経験値も積み上げなければ、そう簡単にできるものではないのです。
変えてはいけないマネージャーの役割
こうして、人(部下)を育てるマネージャー自身も自分を高め、人に興味関心を持ち、自分自身も成長することを目指すことが望ましいと思います。同時にマネージャーは「自己効力感」を高める働きかけを人(部下)に行っていくことが求められています。
このようなことを十分認識して「人材育成」に臨まなくては、人(部下)は育てられないし、人(部下)は育たないと私は思います。マネージャーは大変な仕事です。その中でも「人材育成を軽く考えてはいけない」のです。
そして、大前提にあるのは綿密で質の良い「コミュニケーション」。そしてお互いの「信頼関係」が重要であることを忘れてはならないのです。