マネジメント場面の第一は、人と向き合って話し合いをする場面である。

この時に、自分の意思が伝わらなければ、つまり相手に「何を言いたいのかわからない」と思われてはとうてい目的は達しえないだろう。さらに言えば理解と賛同を得られればなおよいわけだ。相手が進んで「そういうことならぜひ協力したい」と思われれば理想である。このように、この場面が、マネジメントが問われる第一の場面であると言うことは容易にご理解頂けよう。マネジメントを行なう者は、必ず関係者と向き合い、コンセンサスを得たり、説得したりしなければならない。

この場面は、言い換えれば、利害や心情が食い違い葛藤している場面である。どうでもよいことを楽しくお話する場面ではない。幾度も言うが「節目」の場面である。だから当然ストレスがかかり、楽しくはない。こうした場を、いかに前向きなエネルギーに統合し、転化してゆけるかが問われる。同じ内容を言っているはずなのに、ある人が言うと相手は納得し、他の人が言うと物別れになるのはなぜなのだろうか。そしてその結果、成果の重大な差となって現れる。この事の重みはいくら言っても言い尽くせるものではない。

この対人場面を問う場として「面接演習」を行なう。一般には部下の説得の事例を用いることが多い。                       

日常われわれが説得しなければならない相手は、部下の他に、同僚、関係部門、上司、顧客、パートナー企業その他多様である。その中で部下こそは基本中の基本だからである。部下を使いこなすのは難しいとよく言う。それ自体はまちがってはいないだろう。が、だからと言って上司を活用したり、説得するほうがより簡単だ言う話はあまり聞いたことがない。部下を説得できなければ他のどの関係者も説得することは難しいだろう。

この面接演習だが、全員ひとりひとりが、同じ例題に対して同じように取り組む。このあたりが普通の研修とちょっと異なる。普通の研修でも、ロールプレイイングとしてこうした例題は採り上げるかもしれない。しかし、時間的制約その他いろいろな都合があって「全員」同じ体験を積むまではとてもゆかないのが「普通」だろう。せいぜい例題を置いて、グループ討議を行い、さあ誰か代表選手が実演だと言うと、そのグループの中のいちばんの先輩が、いちばん気の弱い受講者を指して「おい、おまえが行ってこい」などと「指示」して、それを見て皆でげらげら笑う、と言った様子が「普通」かも知れない。これだと研修は楽しいかもしれないが、学びとしてはさして深く残らない。  

このアセスメントでは、どの場面もそうだが、全員同じ体験をするのである。

そしてこの面接演習の様子は、全員分ビデオに撮る。それを演習終了後、全員で見る。ありありと様子がわかるだろう。「部下の育成はいかにあるべきか」などと討議するよりも、百倍もインパクトのある結果になるだろう。いろいろなことがそこでわかる。「あるべき論」の討議はだれでも美しいことを言える。しかし、私たちにとって何より大切なことは、節目の場面で自分がどう行動しているかを直視して確認することであり、その行動を、どうレベルアップできるかをわがこととして深くふりかえることなのである。

(この記事は「株式会社マネジメントフロンティア」ウェブサイト上に2011年9月27日付で掲載された記事「その4:対人場面と面接演習」の再掲載です。)